望むものただ一つくれてやろうと、誰かが言う。
 謡うように、ゆったりとしたその声の調子。
 何より笑った気配が、不快で不快で不快で たまらず








 私は




















 Salome

















 信じられなさに、言峰は大きく目を見開く羽目になる。
 こんな所で居眠りをするとは。
 そして
 …あの生々しさが、夢だとは。
 到底思えず言峰は目を押さえる。


「……目が覚めたのか言峰」


 ギルガメッシュが向かいの座椅子に座っていた。言峰は返事をしなかった。
 時計を見ても実感が沸かない。
 深夜独特の空気は澄んでいるものである筈なのに、奥まった部屋ではそれが感じられない所為も
あるだろう。


 空気の入れ替えを長い事していない淀みは、がらんどうの寝室とは全く違う。
 故に普段なら眠れるものではない筈なのに、それ程に疲れていただろうか、自分は。


 解せない。



 身体を起こすと、部屋は変わり無く暖色の光がぼんやりと灯っていた。





「アーチャー、私はいつから眠っていた…?」
「…知らぬ、此処に来たらもうそうしていたぞ」
 ギルガメッシュが答える。
「…そうか」
「貴様でも、夢魔に魘される事があろうとはな…見ていて飽きなかったぞ」


 くく、と言葉通り満足を見せた。しかし言峰は自分のサーバントがそういうものだと知っており
反応は返さない。

 しかし心は乱れる…言峰の心中は夢に魘されたのなど、これが産まれて初めてではないか?と自
問する。


 多分そうだろう、とも。
 そしてもうここ数年…十数年。
 言峰に夢を齎す眠りなど訪れた試しなど、無かったと。





「…夢、か」
 背凭れにぽつりと呟く。それすら全くらしくない。








 言峰の反応の無さにやっと飽きたのか、ギルガメッシュは言葉も無く、部屋を出て行った。
 それを見届けもせず、言峰はソファの背に凭れて、ふう、と息を吐いた。


 手探りで、胸の十字架に触れる。指で摘み、眉を潜めた。
 自分の体温でぬるく温まった十字架を、ぎゅうと握り締める。


 煮える頭を沈めようと―









 …苛立つ。
 夢に。
 乱されている自分に。





 夢のせいだ。
 実際、夢を見るとはこんなにも疲れる物だっただろうか。


 あの頃……若い頃には、そんな事も無かったか。


 違う、一時期は悪夢にうなされるのに怯え、眠れないような頃はあったような
 気がする。


 そう思い出すと、自然笑えた。
 夢を見るのは疲れる。




 …精神的に。

 なんてシュールな













「夢…」


 ぽつり、口に出した言葉は、部屋に戻ってきたギルガメッシュの耳にも届いたようだった。
 相手にしなかった事を根に持っているのか、言峰を見て一言、「…気持ちが悪い」


 言峰は答えなかった。


















 眠りに、落ちる。






 望む物ただ一つくれてやろうと、誰かが言う。
 言峰は皮肉に笑い相手を見据える。


『貴様の首が、この手に欲しい』


 鼻白むのを期待したが相手は言峰にかわいそうだねと言わんばかりに、とろけそうに微笑む。





『欲しいのならば、その手を汚すべきだろう』





 その言い振りに一瞬で腹が煮えた。




 不快だ不快だ不快だ













 私は








私は


















『求めよ、さらば与えられんと神が言う。君も一度位、求めてみたらどうだい。なあ言峰…?』














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フィーリングで読むキリコトキリ。
みたいな(いい加減ですみません)。

 望むものただ一つくれてやろうと、望むものただ一つくれてやろうと、誰かが言う。

というシチュエーションが好きな為実は他ジャンルでもそれから始まるのを書いた過去が…。
(もし万が一見た事がある人がいたらまずいので言い訳)
内容は全然違う物ですけど(笑)。

言峰にも少し位人間らしい所あった方が良いとは思うんですが
この人がベッドでパジャマ着ている所はどうしてもリアルに想像できません。
シャツにズボンで硬いソファーの上うつうつ眠るのが似合いそうだとかそういう妄想です。
補完は出来てないですね(笑)。