「帰ったぞ」
出て行った時と全く同じ出で立ちで、ランサーはドアを開けた。
数時間の間に何がどうなったか確かめるように廊下を歩くが、静かなものだった。
居間へと入っても誰もいない。
思い浮かんだのは、一つだけ。
…出て行ったのだろうか。
「……まあ、そうだよな」
あれの中身が一緒に暮らしていた子供で無いならば、此処にいる理由は無い。
ランサーだってそう思ったのだから、本人にすれば尚更だ。
ソファに座って、テレビを点けると再放送のドラマをやっていた。
たまに小さいのが見ていた気がする。
ぼんやりとランサーはこれからどうしよっかなと考えていた。
「まあ、どうにでもなるけどな」
「何故此処に在る」
「さあな…」
思い切りよく振り向き立ち上がると、そこに居たのは
「……ギルガメッシュ」
自然に、その名が口を付いた。
視線は、低い。子供のままだ。
いや、気に入っていた子供服を着てはいるが、その風格はあの子供のままでは無かった。
尊大な、今朝のギルガメッシュの纏う雰囲気を皮膚に感じる。
ランサーの投げかけに対しては返事は無く、
「此処は誰の棲家だ。我は…いつから此処に居る」
冷ややかな目で英雄王は、そう部屋に視線を巡らす。
「もしかして…テメェ記憶が無いのか?」
ランサーは顔を顰める。子供に成った時の記憶が無いのならば、状況説明が面倒だ。
ギルガメッシュは何故かそこでく、と笑った。
酷く皮肉な表情。
何だ、と声を掛ける前に、小さな英雄王はランサーに足払いを掛けた。
如何せん力は身体に見合って弱くなったのか、ランサーの下半身が少しぐら付く程度…
「っと、とっ」
と思いきや
「往生際が悪いぞ、狗」
とそれにもう一蹴り。
加えてソファに躓いて倒れた。
腕置きで頭を打って不覚を取っているうちに、覆い重なる小さな身体。
「お、い!」
「暴れるな、遣り難い」
傍に人無きが若しに両手を両手で戒められる。
青年体ならばきっと片手で事足りる…そんな苛立ちを感じさせる動きだった。
力は存外強い。身体は子供の癖に。
顔が近づくので顔を逸らすと、首を噛まれた。続いてちゅ、と軽く吸われる。
セクシャルな行為な反面、自分の作った物を租借する歯並びの良い歯が頭を思い出しかっと赤く
なる。
「ちょ、っ!」
「煩いぞ」
「馬鹿、やめろ子供の癖にっ」
ランサーはばたばたと暴れる。
しかし相手は子供だ、本気になって反抗すると殺してしまいそうな軽い身体に要領を得ない。
そんな隙をつき続けた小さな英雄王は、その子供の姿で尊大なままで。
色気垂れ流しの声をランサーの耳に囁いたのだ。
「男に抱かれるのは久々であろう……蕩ける程に優しく抱いてやっても構わんぞ?」
その一言を聞いた瞬間、今日一番の違和感を感じた。
ぞわわわわわわと全身に鳥肌が立つ。
思わず叫んだ。
「お前誰だ――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
有り得ない。
有り得ない有り得ない有り得ない。
天変地異が起きようとも有り得ない。
ギルガメッシュが
『蕩ける程に優しく』
なんて、口にする筈が無い。
うっかり
『壊れる程に激しく』
と言ったとしても、優しくなどと言う筈が無い。
きーもーちーわーるーいー!!!!
と平仮名でランサーは続けて叫び出したい位だった。
情けないので流石に我慢したけれど。
ランサーの過剰な反応に驚いたのか、英雄王は大きな目を見開き
そして次の瞬間
花が綻ぶ様に、ほにゃっと可愛らしく笑った。
「……ちえ、バレましたか」
悪びれずに堂々とそういう子供に、ランサーは驚愕した。
「ま、おま、え」
「スミマセン」
ぺろっと舌を出したのは、紛れも無く、小さな英雄王だった。
ぴかぴかの笑顔ときらきらの魂を持った無敵のお子様王。
けれど、それが本当ならば。
今朝から現在にかけての行動の異は。
「や、単なる思い付きだったんですけど…どういう反応するかなって」
大変だったんですよ、と笑顔で言う。
自分のキャラクターがあまり掴めていないから、自分を見知っている筈の人を訊ね、喋り方や振
る舞いを学んで、今朝は殆どぶっつけ本番だった、と小さい英雄王は語った。
そりゃあそうだ、どこでリハーサルするよ。
……道理で、異常にクールだと思ったのだ。
少なくともホロウに登場するギル様では無かった。
最後は少しうっかりだったけど。
しかしそれをこの子供が演技していたのだと思うと、恐ろしい物がある。
「あ、でもほんと。スミマセン。ごめんなさい。…悪気とか無かったんですよ?」
怒らないで下さいね、と目を潤ませて上目遣いをされたとしても
いやいや、ここはなぁ?
ランサーは遠慮無しに小さい英雄王の頭目掛けて拳を落とした。
ごぅん。
「……今度やったら、ぶちのめす」
「……はぁい」
ずきずきと痛む頭が痛い。
たんこぶが出来てるかも、と思いながら小さい英雄王はため息を吐いた。
「バレなかったら一回位、イレギュラーとして良いかな…とも思ったけど」
流石に、身体の繋ぎ方でバレたりなんかしたら体裁が悪い。
「未来、ボクがどんな変質的なプレイをしてるとも限らないしね…ま、良いか。やっぱりこういう
事はフェアに行かないと」
うんうん、と頷く。
ランサーが聞いていたら「今更どの口からその台詞を抜かすか」と言った事だろう。
「あーあ。でもやっぱりランサーさんと大きなボク、そういう関係だったんだ」
否定されなかったなーとか拒まれなかったなーとか。
「何か……ちょっと悔しいなぁ」
今日は晩御飯抜きかなぁ、と言うのと同じような節で、ちょっと困った微笑み、切ない表情。
小さな英雄王の欲しかったのは、確信だったのです。
***
小さいギ様は大きいギ様の事薄ぼんやりとしか判ってないとして、
でもセイバーの事を狙ってたというのは理解してたので。
じゃあランサーに情欲?があった事は覚えていたけど…
…とか、実際そこら辺があやふやだったら小さいギ様はどうしたのかなーみたいな妄想ストーリー。
小さいギ様はきっと
「ああこれでランサーさんをびっくりさせられると思ったら他の事どうでもよくなって」
(てへ)
みたいなお子様ですか(レベルEネタ)
【入】