『僕が知ってる知らない事。』
夕方。
今日は夕食の変更もなく、穏やかに食後になっていた。
…ただし、常なら出かけるかテレビ見るか構ってほしがるかしている人物が、大人しい。
ソファに座り込み、ただ腰掛けて…気味が悪いほどに、大人しい。
片付けも終わり、ランサーはソファの前に回り込む。
「どうした?」
ゆっくり顔を上げて
「はぁ〜〜〜」
これ見よがしに溜め息をつく。
「…何だって――」
「ランサーさん…」
不審&心配そうに話しかけようとした所に、か細い声で
「キスってしたこと、ありますよね…」
またもや溜め息。
突然の質問と言うより確認の言葉に
「そりゃあるだろ。一応オレは子持ちだったんだぜ」
してない方がおかしい。そんな言葉に更に溜め息をつき――
「僕はまだ、ないんですよ」
衝撃の事実を少年は吐き出す。
「…嘘だろ」
絶句した後なんとか言うと、金髪の下から恨みがましい目を向け
「ランサーさんは僕を何だと思ってるんです!僕は本当ならギムキョウイクも終ってない
年なんですよ!」
そうして口を尖らせる姿は確かに子供。
「僕だって色々…悩むんですから…」
そうしてまたソファに深く沈み込んだ、美少年と言ってなんら問題のない人物に…
「いきなり、何だってそんな事を気にしだしたんだ?」
本性を知っているくせに、聞いてしまった。
今や深山町のお子様たちのカリスマ、ちびっこマフィアのゴッドファーザーであるギルガ
メッシュが、弟思いの三枝由紀香に会ったのは、当然の結果だった。
そしてそのさり気ない優しさや素朴さに惹かれた。
しかし…
「所詮は弟の友達。男性としては見ない」
言い放った。言い放って…
「それじゃあ僕、どうすればいいんです。チューの一回でも、するしかないじゃないです
か」
もそもそと丸くなる。そんな様子は見る人が見れば庇護欲を誘われる可愛らしい姿だ。
(この姿見せたら早いんじゃないのか…?)
まぁとりあえず。
「そんな事しなくても―――」
「そんな訳でランサーさん」
がばりと体を起こし、ランサーにぐぐっと近付いて
「練習に付き合って下さい」
今すぐにでもしそうな勢い(と言うより身長差がなかったならしていただろう勢い)で言
うワガママっぷりに
「や、待て?だからチューしなくても別にいいだろ」
不服そうにする中で、更に
「第一、何で俺だ?」
何度も言うが、小ギルは深山町のちびっこマフィアのゴッドファーザー。キス相手なら事
欠かないのでは?
「もし僕が誰かにキスしたとしたら…」
ランサーの服を軽く掴み、下からの上目遣いで
「その人と、付き合うことになるんですよ」
じっと見てくる子供は、将来は確実に男前に仕上がるだろう。
「あぁ…なるほどな」
更に今の段階で既にいくつもの店のオーナー。
これでは簡単に練習出来る相手などいない。
「そう言う事でランサーさん、ここに座って下さい」
少しは納得したランサーに、今まで自分の座っていたソファを示す。
「…だからって言ってだなぁ―――」
「命令ですよ!ランサーさん。雇主の、メ・イ・レ・イ!」
一つ一つ区切って言う様はともすれば反感を抱くだろうが…今の必死な子供の姿では、抱
くに抱けない。
溜め息一つ。
ソファに深く沈み込んだランサーは、見上げる形から見下ろす形になる。そのふん反り
返った形のまま
「で?俺はどうしてればいい?」
少し驚いたように見つめていた深紅の瞳に、青色の英傑は言った。
たかだかチューの一回くらい、その場ですぐに終わるとランサーは思っていたのだが
「ムードとかも必要だと思います!」
そんな事を言った。
確かに生娘とか、そう言うの大事にするよな〜などと考え、ランサーはその要望に答え
「…」
ギルガメッシュの本来の寝床であるキングサイズのベッドへ移動する。
(何か違くないか?)
ランサーはそう思ったものの、さっきからのやり取りで反論も馬鹿らしくなっていた。
「とりあえずココに座って下さい」
上機嫌に言うお子様は、ベッドを数度叩く。疲れ切ったように返事しながら、ランサーは
ベッドに腰掛け
「あいよ、座っ――」
ランサーの額に、微かな感触。いきなりのキスに、さすがに驚くが
「ん〜やっぱ、何か違いますね…」
「つーか慣れてるじゃねぇか」
つい洩らす。聞き拾ったのか
「ランサーさんもこれくらいのこと、子供の時分にやってたでしょう。僕がしたいのは、
この上です」
少し口を尖らせたが、すぐに表情が変る。
「教えて下さいよ、ランサーさん」
子供の姿のくせに、大人になりかけた態度。
「大人のキス」
「…!」
逃げようとした時には遅かった。
立ち上がろうとした体は押し倒され…薄暗闇の中、金色に輝く髪から覗く赤い瞳に掬われ
る。
間…
「…おい」
仰向けに倒れたランサーは、体にすり寄り、素肌の感触を味わっている人物に声を向け
る。
「キスとかしたこと、なかったんじゃねぇのか?」
うつぶせになり、気持ち良さそうに目を細めていたランサーの雇主は
「僕は、ありませんでした」
ほんの少し顔を上げて、同じ色の瞳に笑いかけ
「けど、将来の僕にはあったみたいで」
身動きしてランサーの体を上った子供のギルガメッシュは、小鳥のように頬にキスする。
「僕は知らなくても、僕の中の記憶が知ってるみたいなんです☆」
そうやって金色の英雄王は言い、青色の英傑は更に脱力してベッドに沈み込んだ。
終
い、一応挿入してますことよ?
…ごめんなさい、私にはこれが精一杯です(ΘoΘ;)
【果林糖】
挿入させてくださいという無理なお願いを聞いてくださいました。
有難う!ありがとう!ありがとう!(笑)
【突】